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第35話 何しに来たの?

last update Last Updated: 2025-05-22 11:58:19

「全く……。退学処分にすると息巻いている教師に反省文と『魔法学』のレポートを提出する意味があるのかしら? 大体レポート提出なんて言われているけど、そんな物提出しても絶対再提出を命じられそうな気がするわ」

ジョンがどこかへ行き、1人になった私は昇降口目指しながら歩いていた。

そもそも退学を免れる為にジョンが提案した反省文とレポート提出。それを当の教師が絶対に退学させると息巻いている以上、書くのも提出するのも無意味としか思えない。

そうだ……いっそのこと、何もかも放棄して逃げてしまおうか? どうせ私は家族からは嫌われているようだし、そもそも記憶喪失になっている今、自分が置かれている状況に違和感しか無いのだから。

……等と考え事をしている間に気付けば昇降口へとやって来ていた。

「え……と……馬車の待合所はどこかしら?」

記憶喪失になっている今、建物の構造も何処に何があるかもさっぱり分からない。

「それにしても妙な話よね。いくら記憶喪失になったからと言って、こんなに何もかも忘れてしまうものかしら?」

本当に私は記憶喪失なのだろうか……? だんだん不安になってくる。ひょっとすると私はユリアではない全くの別人で、何らかの力でこの体に乗り移ってしまったのではないだろうか?

「う〜ん……そう考えるのが一番まっとうよね……」

ブツブツ言っている私のそばを気味悪そうに横目で見ながら学生たちが通り過ぎていく。

そうだ、彼等の後をついていけば馬車の待合所に着くのかも知れない。そこで学生たちの後をつけることにした―—

****

 やはり思った通り、学生たちの後をついていくとそこは馬車の待合所だった。彼等は皆、自分たちを迎えに来た馬車に乗り込むと学園を去っていく。

「ジョンが来るまで待っているしかないわね」

私にはどの馬車が自分を迎えに来ている馬車か分からない。それに仮に馬車に乗ったとしてもジョンを置いて帰るわけにはいかない。そんな事をすれば私は明日を迎えることが出来ないかもしれない。

そこで大人しくベンチに座り、ジョンが来るのを待っていると前方から見知った顔がズンズンこちらへ向かって歩いてくる。

その人物は……。

「こんなところで何をしているんだ?」

ベルナルド王子は3人の腰巾着を後ろに連れ、腕組みをすると私の前に立ちはだかった。

「こんにちは、ベルナルド王子」

何でまた私の前に現れるのだ
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